考えたくはないですが、災害が多い日本では、車が水没してしまったときの対処を考慮しなくてはなりません。自ら冠水した道路に入らないのは当然ですが、どうしても防げない事態に遭遇してしまうこともあるでしょう。
万が一、車が水没した際には、まずは自分の身を守ることを最優先にしてください。落ち着いてきたら、車をどうするか考えましょう。
水没しないのが一番ですが、いざというときのために知っておいて損はありません。今から紹介する内容を是非参考にしてください。
日本自動車査定協会の中古自動車査定基準では「集中豪雨や洪水などにより、室内フロア以上に浸水したもの、または、その痕跡により商品価値の下落が見込まれるもの」が水没の定義とされています。
また水没した車は水害車と呼ばれ、さらにそのなかで水没車と冠水車に分かれます。水没車は全体が水に沈んだことがある車を指し、冠水車は車体が水を被ったことのある車を指します。
水没車は動かない可能性が高いですが、浸水の程度によっては、修理すれば動くケースもあります。
冠水した道路はどの程度まで走行可能か、こちらの記事でも紹介しています。
まず水没してしまった直後は、中がどのような状態になっているか、どこまで影響を受けているか分かりません。そのため、すぐに運転して動かすのは絶対にやめましょう。
レッカー車に移動を依頼して、ディーラーや整備工場に運んでもらい、調べてもらったうえで、今後引き続き乗れるのか判断してもらうことになります。
では、水没した車は、具体的にどのような状態になるのでしょうか。
あらゆる部品が、水によって急速に劣化します。さらに浸水した水が海水であれば、塩害のために、真水よりも金属部分の腐敗が急激に進んでしまいます。エンジンルームが浸水すると、エンジンが始動しなくなることもあります。
車内で飲み物をこぼしたり、雨の日に濡れた靴で入ったりしただけでも、なかなか乾かない経験をしたことがある方は多いのではないでしょうか。少量の水分でもなかなか乾かないのに、浸水したら完全に乾くまでかなり時間がかかります。
乾くまで多湿が続くと、どんどん車内で雑菌が繁殖して、カビも生えやすくなります。非常に不衛生な状態になるため、臭いも発生し、乾いたとしても臭いが消えないこともあります。
電化製品が水に浸かったらショートするように、車の電気系統も浸水したらショートしてしまい、発火や爆発の恐れがあります。
たとえ時間が経って乾いたとしても、その後車両火災の発生や、将来的に品質上の重大な問題が発生することがあります。一度浸水したら、電気系統が完全に復帰するのはかなり厳しいと思っておいてよいでしょう。
水没した車は、非常に危険な状態であることがわかりました。それでは、どのように対処したらよいでしょうか。
水没しても100%修理が不可能というわけではありません。判断基準のひとつは、マフラーです。
マフラーが水に浸からなければ、修理できる見込みがありますが、浸水していたら廃車にした方がよいでしょう。
また修理だけではなく、車内の清掃も必須となります。基本的に浸水の水はきれいな真水ではなく、路上の泥などが混ざった水であることが多いでしょう。
そのため泥や水の臭いがなかなか取れないことがあり、素人ではなくプロの手による清掃が必要です。
電気系統や、トランスミッションなどが水に浸かり故障すると、かなり高額の修理費用がかかります。場合によっては、新しく車を買った方が安い場合もあるでしょう。
マフラーが水没すると、排気に異常をきたし、エンジンが止まる可能性が非常に高いです。マフラーは、エンジンでガソリンを燃やした後の排気ガスを出す、大切な部分です。
マフラーが水に浸かると、エンジン内部に水が入ったり、エンジンが故障したりする恐れがあるので、修理して乗れるようになるのは絶望的だと思っておいた方がよいでしょう。
上記にもあるとおり、水没すると、車内に水の臭いが残ることがあります。ひどい状態だと、高額の清掃をしても臭いが落ちないこともあります。よほど気に入っていた車だったり、新車だったりする場合を除けば、基本的には廃車がおすすめです。
廃車にすると決めたら、速やかな手続きが必要です。廃車にしてもきちんと手続きをしなければ、法律上はまだ車を所有していることになり、納税義務が終わりません。普通自動車と軽自動車で手続きが少し違うので、分けて説明します。
普通自動車の場合、廃車手続きには「永久抹消登録」と「一時抹消登録」の2種類があります。まず永久抹消登録は、廃車となった車を解体した後に行う申請です。
運輸支局に登録されている車両のデータが完全に削除されるので、永久抹消登録をしたら二度とその車を使うことはできません。
一時抹消登録は、一時的に車の使用を中止する手続きであり、登録後は公道の走行ができなくなります。もし再度登録した車に乗ることがあれば、車検を受け直しナンバーをもう一度交付することで、再び乗ることができます。
水没して修理を検討する期間や、とりあえず修理してみる場合、また修理はせず廃車にするけど解体手続きに時間がかかる際には、一旦この一時抹消登録をしましょう。その期間の自動車税がかからず済みます。
その後、車の廃車を決めて解体が完全に終わったら、解体届を出しましょう。永久抹消登録と同じ扱いになります。
軽自動車では「解体返納」と「一時使用中止」と呼ばれる手続きがあります。前者は普通自動車の永久抹消登録と同じく、一度登録したらもうその軽自動車は使えません。後者は一時抹消登録と同じで、一時的に登録を停止するシステムです。
水没した車は、もちろん車両保険に加入していたことでしょう。ですが、果たして水没に対し、どこまで補償してくれるのでしょうか。
台風や洪水など、予報ができる災害や、竜巻、落雷、降雪など天候に関する災害の場合は、基本的には修理費用は補償されますが、全損になっていないという条件はあります。
全損というのは、修理費用が保険金額を超えた場合か、エンジンまで水に浸かってしま、い修理ができない状態を指します。
もし全損だと判断されたら、全損の場合の保険料が支払われます。この金額はあらかじめ設定しているはずなので、忘れているのであれば書類で確認してみましょう。
地震や津波など予測がつかない災害では、基本的には車両保険の補償対象外です。このような災害は規模が大きく、保険会社も詳細な保険料の設定が難しいからです。
しかしあくまで、一般的な車両保険では補償されていないというだけで、地震・噴火・津波車輛全損時一時金特約という特約はあります。これは車が全損になってしまった場合に、すぐ車を確保できるようにするための補償です。
車が水没になった場合について、理解を深めていただけたでしょうか。しかし知識があったとしても、水没した車の状態を実際に判断するのは、素人には困難を極めます。普段からまずできることは、災害にあった場合の車両保険の補償内容を知っておくことです。
そして万が一水没した場合は、冷静にレッカー車で整備工場に運んでもらい、プロに車両の状態を確認してもらいましょう。修理して乗り続けたくても、プロが修理しても乗り続けるのが無理だと判断したら、残念ですが諦めましょう。
さらには、もし修理して乗れたとしても、修理費用によっては廃車にし、新しく車を購入する方が安いこともあります。
廃車にするときは、まわりに相談しながら決めましょう。ただ、廃車にするときもお金がかかりますし、車の状態によっては、廃車の引き取りが不可能だと言われる場合もあります。そんなときに頼れるのは、廃車でも最低買取額が保証されている買取業者です。
愛車が水没するなんて考えたくはないですが、災害大国の日本では、愛車を守るためにも万が一に備えておくことが大切です。ぜひ本記事を機会に、もしものときの対処について考えてみてください。