自宅の前や私有地内に放置車両があった場合、まずは所有者を見つけて、撤去する旨を伝えなければなりません。しかし所有者が撤去に応じなかったり、所有者が見つけられなかったりして、放置車両をすぐに移動させられない場合は、どうしたらよいでしょうか。
放置車両はいかなる理由があっても、無断でのレッカー移動や廃車手続きができません。放置している相手が悪いのですが、勝手に廃車にした場合、こちらが違法行為をしたとみなされてしまうのです。
本記事では、放置車両を見つけた場合の対応と手順を紹介していきます。現在放置車両にお悩みの方や、そうでなくともマイホームや土地をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
放置車両は、たとえ他人の所有地に無断で置いていたとしても、車の所有権が車の持ち主であることに変わりはありません。そのため、他人が勝手に触ることはできません。
また、自力救済禁止の原則というものがあり、相手のものを法律上の手続きを踏まず、勝手に移動させる、または処分することは、認められていないのです。
これは、放置車両以外にも適応されています。たとえば家賃を滞納のうえ、住民が行方をくらましたとしても、自力救済禁止の原則のために、室内のものを勝手に処分してはいけません。
このように日本の法律上では、もし勝手に放置車両を撤去したら、持ち主が損害賠償を請求できるのが現状です。廃車にしたからといって必ず訴えられるとは限りませんが、後々トラブルへの発展しないよう、勝手に廃車にする行為はやめましょう。
それでは、放置車両を問題なく撤去するには、どうしたらよいでしょうか。
放置されているのには、さまざまな理由が考えられます。持ち主が意図的に放置しているケースもあれば、持ち主が取りに来たくても取りに来られない状況に陥っているとも考えられます。
さらには、盗まれたものが乗り捨てられた可能性もあり、ひと口に放置車両といってもいろいろな原因があります。まずは警察に連絡し、事件性がないか確かめてもらいましょう。
警察には車の特徴や情報、放置されはじめた日時や、状況を説明するのはもちろんですが、土地の所有者と連絡先や住所、車両を撤去しなければならない期限や、損害賠償の請求をするか否かも聞かれることがあります。
万が一、放置車両が事故や事件のために放置されていると発覚した場合は、直ちに警察が撤去します。事件や事故ではない場合は、車の所有者に撤去するよう警告してくれます。そのため、ここまでは基本的に何もすることはありません。
しかし警告に応じなかった場合、その先は警察にも自力救済禁止の原則が当てはまるので、勝手に放置車両を動かしてもらうことはできません。その場合は、持ち主を相手に裁判を起こし、撤去の許可を得るか、車の所有者に車を動かしてもらうかの2択になります。
車の所有者は、自力でも探すことができます。車に書いてある車体番号と自動車登録番号さえあれば、手続きを踏むことで調べてもらえるでしょう。その場合の依頼先は、普通自動車であれば運輸支局で、軽自動車なら軽自動車検査協会です。
しかし近年、個人情報観点が厳しくなっており、情報を開示してもらえることはほとんどありません。放置車両が自分の土地にあって、撤去したい状況であり、困っているという旨をはっきり伝えましょう。
情報開示してもらい、所有者の電話番号が分かれば、まずは電話することができます。しかし電話が繋がらなかったり、話がまとまらなかったりしたら、配達証明付きの内容証明郵便で撤去させてほしいと伝える必要があるでしょう。
配達証明とは、送った日付と受け取った日付を公式に証明できるものです。内容証明郵便は、誰から誰にどのような内容の郵便を送ったのか、日本郵便が証明してくれるものです。
後々、車の所有者に対して撤去を求めたことを公式に証明するために、少々手間はかかりますが、この2つの証明を必ず付けるようにしましょう。
受け取りを拒否されたり、送り先の住所が本人のものでなかったりすれば、この先は個人での対処が困難になります。
それでは、放置車両の所有者と連絡が取れないケースや、相手が連絡を拒否した場合は、どうするべきでしょうか。
もし放置車両にナンバープレートがないときや、劣化で車体番号が確認できないときは、その放置車両は無主物の帰属ということになります。
つまり、放置車両の所有権は誰にもない状態なので、放置車両の所有権を土地の所有者に移すことで、撤去を行えます。
放置車両が無主物だったり、放置車両の所有者と連絡が取れなかったりしたら、まずは放置車両の前後の窓ガラスに貼り紙をしましょう。無主物であれば、貼り紙に「自動車の撤去後は完全に処分をする」という旨と、その意思が有効な期限を記します。
連絡が取れない場合は、無断駐車がされている日数と、もし何日までに車両を撤去しなければ放置車両とみなして処分するという旨を記します。
どちらにせよ個人で書いて貼っておくのではなく、放置車両の経緯を立証できる証人を用意して、その証人に見てもらったり、貼り紙の内容について法律の専門家や自治体などの法律相談で確認してもらったりする必要があります。
手間がかかりますが、個人で考えて書いた内容だけで貼り紙をすると公的だと受け取られない場合もあるので、協力を仰ぎながら貼り紙を貼るようにしましょう。
貼り紙をしても放置車両がそのままであれば、簡易裁判所へ提訴して、放置車両が撤去できるよう手続きを進めます。損害賠償か、妨害排除請求の訴訟ということになります。
また車の所有権を自分に移すか、撤去の強制執行を行うかという裁判の内容も選ばなければなりません。相手が裁判所に来なければ被告不在で裁判を進めるか、公示送達で裁判所の提示を通して意思表示するという2択で裁判が進められます。
放置車両の状態が、エンジンもかけられないほど劣化しているのか、車内にごみがあったりとても乗れる状態ではないのかなど、車の状況によっても必要な費用は大きく異なります。
車両の状態が悪ければ悪いほど、費用は高額になっていきます。ただレッカーに乗せればよいというわけではなく、ごみの処分費用が発生するケースや、タイヤの空気が抜けており転がらない状態であれば、レッカー代も高額になります。
そして一番費用がかかるのが、裁判を起こした場合です。自分ひとりで裁判を進めるのは不可能ではないですが、非常に困難なため、一般的には弁護士や専門家への依頼費がかかります。
損害賠償請求をすれば費用が返ってくる場合もありますが、必ず払われるかは分からないので、期待はしない方がよいでしょう。
今後の利用が難しい放置車両の場合は、廃車解体を行っている業者に処分を依頼するのがよいでしょう。
解体処理は可能か、車が動かなくても引き取ってもらえるのか、解体報告日の確認はできるかなどを業者に確認しておくと、よりスムーズに依頼ができます。業者によっては、引き取りの際にトラックで運び、運搬費用がかからず済む場合もあるので業者選びも重要です。
また、近年は廃車専門の買取業者に依頼することも可能です。しかしその場合は、放置車両の所有権を移しておかなければならないので、勝手に買取に出さないよう注意しましょう。
土地の所有者が被害者であるにも関わらず、お金も時間も使わなければならないのは非常に腹立たしいことでしょう。しかし放置車両を勝手に処分すると、余計に事態はややこしくなり、法的には加害者になってしまいます。
一番大切なのは、自分の土地に不審車両を放置させないようにすることです。私有地に看板を立てておく、周りに囲いをする、防犯カメラを設置するなど、普段から車両が置けないような状況にしておくことです。
万が一放置車両を発見しても、いつか車を撤去してもらえばいいと楽観視するのはよくありません。後々車両も劣化していき、撤去に手間とお金がかかることになりますので、見つけたら早めに手続きを進めましょう。